【除籍本を読む】 太平のカメ日記

 太平のカメ日記

作:別司芳子

絵:岡本順

文研出版 2009年

私はこの本を、地元の図書館で無料でもらってきた。

除籍本としてタダで配っていたからで、私も自宅でリクガメを飼っているから、どうせタダやろ、と軽い気持ちでもらってきたのだ。


この本の主人公で小学5年生の太平も、軽い気持ちで、ニホンイシガメ、その名も「ガッチン」を飼うことになる。

バレンタインデーの3日前、教室で、生き物係の春奈ちゃんが、カメを飼ってくれる人を探していた。

そのカメは、足が1本失われていた。

誰もカメを飼うと手を挙げなかったが、太平は春奈ちゃんに気に入られたい、という不純な動機で、カメを飼うと立候補する。

さらなる好感度アップ作戦のため、太平はカメの飼育日記、その名も「太平のカメ日記」というブログを始める……。


やがて太平はガッチンを飼うのがイヤになって、ガッチンを捨てようとしたり、それを偶然止めようとしたクラスメートの実香と仲良くなったり、実香の姉・なおリンと友達になったり…と物語は進んでいく。


なおリンはダウン症という障害を持っていて、実香や彼女の家族はそれゆえのさまざまな葛藤をかかえている。

しかしなおリンはカメを7匹も飼っているカメ好きで、太平たち登場人物の関係性は、ガッチンや7匹のカメたちを通じて、新たな展開をみせ、やがて家族の葛藤も解決へと向かう。


太平はガッチンとの出会いから始まって、なおリンと出会い、実香ともそれまでとは違った関係性を築いていく。

最後、太平が実香に対して恋心を抱き始める描写がある。

しかし太平が告白するようなことはなく、ガッチン(メスだった)がなおリンの飼っているカメから1匹を「おむこさん」に迎える、というお話で結末となる。


足が3本のガッチンと、なおリンは、明らかに似た者同士として描かれている。

実香は、太平がガッチンを捨てようとしたとき、「カメは捨てられるけど…」とつぶやく。

これは、実香となおリンの関係が、非常に微妙な問題を抱えていることを意味する。

しかし、太平はガッチンを捨てなかったし、ラストでは実香も、なおリンに抱いていた葛藤を解消していくのだ。


ダウン症や家族の葛藤といった設定は、児童文学としてはやや難しくとっつきにくいかもしれない。

しかしこの小説には、「出会い」が人を変え成長させる、という重要なテーマがあると思う。


「あとがき」で作者の別司さんが書いているが、この物語は、別司さんが誰も飼ってくれる人が見つからない3本足のカメを飼い始めた、という実体験にもとづいて書かれたお話だという。

別司さんはカメとの「出会い」によって気づかされたことがあり、やがてカメをあつかった小説が生まれるという結果になった。

物語では太平も、ガッチンとの出会いによって、さまざまな成長を経験する。

私も、廃棄本あつかいされていた「太平のカメ日記」と図書館で偶然出会ったのである。

その出会いは、私に何をもたらしただろうか?

本を読み終えた私は、「もうちょっと、ヨルをかまってやるか」と、ふと思った。


ヨルとは、私の飼っているカメの名前だ。

ギリシャ神話では、世界はまず「混沌」があり、そこから「夜」と「大地」が生まれて、「夜」から「愛」が生まれた…、という世界観を持っている。

現実はイヤなことがいっぱいあるけど、そんな混沌とした世界から夜が生まれ、やがて愛が生まれるんだ…。

そうした思いから、カメに「ヨル」と名付けた。

なんとも厨二病じみたネーミングだが、私は実際に厨二病だから、しょうがない。

世界は混沌だ。

それでも世界は美しい。



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