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小田切家系図/豊臣秀吉・片桐且元・大谷吉隆連署状(偽文書)

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  慶長1~2年(1596~97)に源景義なる人物が記したとされる小田切家系図の、末尾に引用された文書。 信濃の小笠原氏に始まると記されているが、「関白豊臣秀吉」「片桐東市正豊臣且元」「大谷刑部少輔吉隆」が連署するその文書は、様式や文言が不自然で、明らかな偽文書である。 系図の小田切氏は、三好長基(=三好元長。三好長慶の父)や、武田信玄の川中島合戦にも従軍して勲功をあげたと書かれているが、真相は不明である。 「小田切氏は清和源氏の末裔に間違いない」と秀吉・片桐且元・大谷吉隆(大谷義継)が連署して証明しているが、身分差がある関白秀吉と家臣が連署することは考えられない。 秀吉の花押も、文書の字も、恐ろしく貧弱な書き方である。 ”偉い人物からもらった文書”を偽作することで自分の家を偉く見せようとした、よくある偽文書である。 この系図の小田切氏は信濃佐久郡小田切で活動し、武田・徳川に仕えた一族だが、署名している源景義が何者かもよく分からない。 御尋ニ附奉書上候所、 相違無御座候、以上、  源景義(花押) 慶長元丙申年 二月八日 古系破ニ付、相改候処、 清和源氏之末葉ニ 相違無之、依而印、左ニ 入もの也、 関白豊臣秀吉(花押)(朱印) 執権職  片桐東市正豊臣且元(朱印) 奉行筆者  大谷刑部少輔吉隆 慶長二丁酉年 十二月十四日

源義経の古文書 ただし偽文書。

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文治五年(1189)四月十八日付、源義経とその従者・亀井六郎が連署した文書の写しだが、不審な点が多く、偽文書である。 義経が会津依田村の祖兵衛に酒を渡し、兵糧を借用したが、もし返済しなければ「その時の将軍へ参礼出願せよ」とある。 源頼朝の将軍任官は1192年であるし、「其時之将軍江参礼可出願」という文言も不審な表現である。 ちなみに義経は同年閏四月三十日に奥州の衣川で討たれる。 つまり義経が死の直前に酒と引き換えに兵糧米を得た、という設定である。 この文書は「寛保三年(1743)に祖兵衛が年貢未納により土地没収された際に、祖兵衛宅で古菰に包まれて発見された」と注記されているが、このエピソード自体が疑わしい。 ※文書は長野県の北相木村役場の封筒に入っており、一度は史料調査されたことが分かる(所蔵者の渡辺渡一氏は北相木村議会の副議長)。 【翻刻】  借用申証文之事 一、今度、小酒渡候ニ付、為喰米と物米七斗借用 申処紛レ無御座候、万一無偏斉之候ハゝ、其時之 将軍江参礼可出願もの也、為後生仍而如件、  文治五年四月十八日   伊予守    源義経判   重者    亀井六郎  会津依田村   祖兵衛殿 一、此度依田村祖兵衛殿、寛保弐年ゟ御年貢上納不仕 候ニ付、闕所被 仰付候所ニ、家ノ棟木ニ古菰ニ包置候ヲ 苅落シ改候得ハ、右之証文在之候、持高三百石、 従御 公儀ゟ被下置候事、無相違御座候事、  寛保三亥年迄、五百五拾弐石ニ成なり  

映画感想文「PERFECT DAYS」主演:役所広司/監督: ヴィム・ヴェンダース

この作品は、人生を「木漏れ日」にたとえているところが面白い。 役所広司さん演じる初老の男性の日常を、ただ淡々と描く。 彼にはつらい過去が存在したことがうかがえるが、それが何であったのか具体的にはまったく明かされず、物語は終わる。 具体的に明らかでないから、観客が自由に自分に当てはめて、それが何であったのか想像することが可能だ。 父親が暴君で、それを許せなかった彼は父親と対立し、家族は引き裂かれ、妹とも埋められない溝ができてしまったのではないか、と私は想像した。 妹と彼は、分かり合いたいとお互いに思っているけれど、どうしてもそれができない。 物語の終盤で、彼ともう一人の初老の男性が、「影が重なったら、色が濃くなるか?」と議論する。 二人は夜の闇の中でお互いの影を重ねてみたが、もちろん科学的には影が濃くなったりはしない。 しかし、彼は影を重ねてみて「何も起こらないはずない」と言い張る。 人生では、誰もがつらい「影」を背負っている。 「影を重ねる」とは、人と人とが出会い、分かり合おうとすることの比喩だろう。 しかし実際には、お互いに分かり合いたいと思っても、どうしても分かり合えなかったりする。 「何も起こらないはずない」=「きっと分かり合えるはず」と彼は思いたいけれど、やはり現実には無理なこともある。 風が吹いて、木々の葉っぱがこすれ合い重なり合って、その間からふりそそぐ木漏れ日は、一瞬の光や影だ。 人生における日々のうれしいこと、つらいことは、風が葉っぱをゆらし、光や影を生む一瞬の木漏れ日に似ている。 人生はうれしいことや、つらいことの連続で、そうした一瞬一瞬を、ただ生きよう。 この作品は、そんな人生観をきっと描きたかったのではないだろうか。 人生とは「木漏れ日」である、そう思うと、私はなんだか生きることに希望が持てるような気がした。 「PERFECT DAYS」 監督: ヴィム・ヴェンダース 主演:役所広司

映画感想文:「ぼくが生きてる、ふたつの世界」主演:吉沢亮

平凡な事実を描くことで、「親の愛」というもっとも普遍的な、大切なテーマを描いている。 2024年に私が見た映画で、もっとも好きな作品。 吉沢亮さんがコーダ(聴覚障害のある親をもち、自身は聴覚に障害のない人)の男性を主演する。 耳が聴こえないがゆえに、子どものころから自分を守ってくれなかったと思っていた母が、実は自分を守り続けてくれていたのだ、とやがて主人公は気づくようになるところで、物語は終わる。 彼がそう思えるようになったきっかけは、父の強いすすめで上京し、仕事でも友人関係でもさまざまな経験をしたことによる。 コーダも、聴覚障害者も、健常者も、実はみんな平凡で普通なのだ……映画を見て、私はそう感じた。 たとえば、巨匠が巨額の資金をつぎこんで作ったすごい映像の作品は、それはヒットはするだろうけれど、私はそれを美味しく味わうことはできない。 一方で、いくつもの平凡な事実を連ねたストーリーによって平凡で大切なテーマを描くこの作品は、例えるなら、スーパーで買った食材でちょっとした美味しい料理を作ってみせた……そんな印象を受けた。 そういう料理が、きっと人を幸せにするのかもしれない。 映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」 主演:吉沢亮 コーダ CODA:children of deaf adults 聴覚障害のある親をもち、自身は聴覚に障害のない人。