映画感想文「PERFECT DAYS」主演:役所広司/監督: ヴィム・ヴェンダース

この作品は、人生を「木漏れ日」にたとえているところが面白い。


役所広司さん演じる初老の男性の日常を、ただ淡々と描く。


彼にはつらい過去が存在したことがうかがえるが、それが何であったのか具体的にはまったく明かされず、物語は終わる。

具体的に明らかでないから、観客が自由に自分に当てはめて、それが何であったのか想像することが可能だ。

父親が暴君で、それを許せなかった彼は父親と対立し、家族は引き裂かれ、妹とも埋められない溝ができてしまったのではないか、と私は想像した。

妹と彼は、分かり合いたいとお互いに思っているけれど、どうしてもそれができない。


物語の終盤で、彼ともう一人の初老の男性が、「影が重なったら、色が濃くなるか?」と議論する。

二人は夜の闇の中でお互いの影を重ねてみたが、もちろん科学的には影が濃くなったりはしない。

しかし、彼は影を重ねてみて「何も起こらないはずない」と言い張る。


人生では、誰もがつらい「影」を背負っている。

「影を重ねる」とは、人と人とが出会い、分かり合おうとすることの比喩だろう。

しかし実際には、お互いに分かり合いたいと思っても、どうしても分かり合えなかったりする。

「何も起こらないはずない」=「きっと分かり合えるはず」と彼は思いたいけれど、やはり現実には無理なこともある。


風が吹いて、木々の葉っぱがこすれ合い重なり合って、その間からふりそそぐ木漏れ日は、一瞬の光や影だ。

人生における日々のうれしいこと、つらいことは、風が葉っぱをゆらし、光や影を生む一瞬の木漏れ日に似ている。

人生はうれしいことや、つらいことの連続で、そうした一瞬一瞬を、ただ生きよう。

この作品は、そんな人生観をきっと描きたかったのではないだろうか。


人生とは「木漏れ日」である、そう思うと、私はなんだか生きることに希望が持てるような気がした。


「PERFECT DAYS」

監督: ヴィム・ヴェンダース

主演:役所広司

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